(どうしてだろう?)

彼は決して素顔を晒さない。それも気になるところだ。

「何かいいことがあったのかい?」

妹はウフフと笑って、「あのね」と勿体つけるように言葉を切り、葵宇宙に満面の笑顔を向けた。

「もう少ししたら退院できるかもって」

葵宇宙は驚いたように、うさぎリンゴを作る母親に視線を向けた。

「……ドナーが見つかりそうなの」

母親は言葉少なに静かな笑みを浮かべた。
それは、臓器提供を承諾している脳死状態の人がいるということだ。妹は屈託なく笑っているが、深く考えると笑えない。なぜなら、助かる者がいるということは、死にゆく者がいるということだからだ。その意味が分かっているから母親は、露骨に喜びを表に出せないのだろう。

「そっか、ツキミ、良かったな」

葵宇宙も複雑な顔をしながら妹の髪をクシャと撫でた。

「もう、ぐしゃぐしゃになる」

肩までのボブヘアーを撫で付けながら妹がプクッと膨れる。