屋上で偶然彼と出会った。でも、今なら分かる。あれは必然だったと……。 

「宇宙君、ありがとう」

高校生になったらいろんなことがしたかった。当然、恋も……。

〈あれっ、君は……君に会ったことがある〉

私の声に答えるように、突然、葵宇宙の思考が心に流れ込んできた。

〈懐かしいなぁ、会いたかったんだ。君は僕の初恋の相手だから〉

初恋? 誰かと勘違いしているの?
ちょっとショックだった。

「お兄ちゃん、何を寝ながら笑ってるの? 不気味」

葵宇宙に視線を向けた妹が肩を竦める。
眠っているのは確かみたいだ。でも、妹の声は彼に届いていないようだ。

〈そうだ、思い出した。名前はトトちゃんだ〉

えっ、と葵宇宙を見つめる。
トトというのは、私の幼い頃の呼び名だった。『とうこ』と発音できず『トト』と言っていたのだ。
それを知っているということは……本当に私は葵宇宙の初恋の相手?
覚えがないがそれが本当ならどんな因果だろう……。
満足そうな笑みを浮かべ、葵宇宙は深い眠りに陥った。
こうなると、もう葵宇宙の思考と交信することはできない。

「宇宙君、さようなら」

たとえ彼の思い違いでも、私が彼の初恋だったら……と思うだけで顔が綻ぶ。

「宇宙君、ありがとう」

キョロキョロと辺りを見回し、私は彼の唇に自分の唇をそっと重ねた。
……これが私のファーストキスだった。