「二人とも透子が可愛くないんですか? 絶対に嫌です。透子は戻ってきます。それまで一生……」
「一生は無理だ。私たちの方が先に逝く。あの子を置いて君は逝けるのか」

父の言葉に母は激しく嗚咽しながらガラス窓に縋り付いた。

「あの子はまだ温かいの、生きているの。それを殺すなんて……それに、あの子はドナー登録しているのよ。体を傷つけられるなんて、絶対に嫌!」
「それは違う。透子は死して尚、人様の役に立ち、生きることを望んでいるんだ。誇りに思わなければ」

その言葉にハッとした母はその場に泣き崩れた。

「ごめんなさい。親不孝な娘で」

抱き合う三人を私は抱き締めた。

「透子……?」

霊感のない母がベッドに横たわる私を見る。

「聞こえた。今、あの子が……ごめんねって……」

母は決心すると即実行の人だ。グッと涙を飲むといきなり立ち上がって看護師長に「延命維持装置を外して下さい」と言った。

(これで葵宇宙の妹は助かる)

フワッと体が軽くなり、気付けば葵宇宙の側に立っていた。

「ツキミ、悪い、ちょっとだけ仮眠させて」
「また遅くまで映画見ていたんでしょう?」

妹の嫌味を聞き流すと、葵宇宙は大きな欠伸を一つして目を瞑った。