「ほら、見てご覧なさい。眠っているでしょう」

母がドヤ顔で言う。父と姉がガラス窓にへばり付く。三人の様子があまりに滑稽で笑えるけど……泣けてくる。

「お母さん、透子が泣いてる」
「本当だ、透子が泣いている」

姉と父の声に母も私を見る。

「目覚めるの? 看護師さん、来て!」

母の大声で医者と看護師が飛んで来た。だが、私を診察すると医師は首を左右に振り、「お気の毒ですが、何ら変化ありません」と言った。

「だって、涙を流したのよ!」
「生理的な現象です」

こういうことは、たまにあるそうだ。
そう告げ医師はその場を後にした。

「なによ、もっと親身になって診てくれてもいいじゃない!」

母の怒号が響き渡る中、「霧乃さん、落ち着いて下さい」と母をなだめたのは、この部屋を担当する看護師長だった。

「医学に携わる者がこんな非科学的なことを申し上げるのは何ですが……お嬢さんは何か訴えられたいことがあるのではないでしょうか?」

姉の顔色が変わる。

「お母さん、延命維持装置を外してもらいましょう。透子が願っているの。私に頼んだの」

姉の唐突な言葉に怒りの矛先が変わる。

「何を言うの! あの子は死なせはしない。ねっ、お父さん!」
「……母さん、透子をもう解放してやろう」

父の言葉に母の顔が失望の色に染まる。