「お父さん、ありがとう」

母と同じように父の手にも触れる。

「……透子?」

でも母とは違い、父は私の気配を感じたようだ。あまりに意外で心底驚いた。常々父は奇想天外摩訶不思議なものに嫌悪を抱いていたからだ。

「もしお前なら、姿を現しておくれ」

父が辺りを見回す。

「内緒にしていたが、実は父さん、ちょっとだけ霊感みたいなものがあるんだ。でも、恥ずかしいけど、本当はそういうの怖いんだ。でもお前の霊なら大丈夫だ。会いたい!」
(あの父が?)

幽霊が怖い? 晴天の霹靂だった。

「お父さん、私を感じてくれているならお願いを聞いて。アメリカに連れて行かないで。もう十分だから、この身を解放して」

伝わっただろうか? そう思いながら父の顔を見上げると……泣いていた。

「透子……会いたい……お願いだから逝かないでくれ」

言葉は聞こえていないようだが、何か感じてくれたのだろう。信じられないがあの父が泣いている。

今まで私は家族の何を見ていたのだろう……こんなにも愛され、大切に思われていたのに……。