「こんなことなら、あんなに厳しくしなければよかった」

母がブツブツと呟く。

「私に似ていたから私と同じ過ちを犯して欲しくなかったから……転ばぬ先の杖……あんなの必要なかったのに。転んだらただ慰めてあげればよかったのに……温かく見守ってあげていればよかっただけなのに……」

(母と私が似ている? 姉じゃなく?)

思いがけない言葉だった。
まるで異世界にでも飛ばされたような……今まで見えていなかった世界が初めて開けた。そんな気分だった。

「中学受験に失敗した時も、誰よりも傷付いていたのは貴女だったのに……」

深い後悔の念が母の様子に見て取れた。

「教育評論家という立場であれほど偉そうなことを言っているのに……私は貴女を慰めをせず、奮起するように発破をかけることしかしなかった……」

母の全身がワナワナと震え始める。

「それでも……貴女は自力で立ち直ってあの高校に受かった。なのに……」

とうとう堪え切れなくなったのか、ボロボロと涙が零れ始める。しかし、母はそれを拭いもせずガラス窓に縋り付く。

「本当にどれだけ貴女を愛おしく、誇らしくと思ったことか」

混沌としていた心が晴れていく。しかし、心とは裏腹に目の前の母の姿が涙で霞む。

「お母さん……ごめんなさい。それから、ありがとう……」