「嫌よ! 延命維持装置を外したら貴女を取り戻せない」

姉が激しく頭を振る。
まるで起きているようだ。

「ごめんね。もう、戻れないんだよ。でも……」

何故だろう……きっと戻ってくる。確信めいた思いが湧き上がる。

「ちょっとだけ待っていて、必ず帰るから」
「帰ってくるの? 本当に?」
「うん。だからお別れは少しの間だけ」

全て紐解かれた。
私らしくない行動。私に気付かない人々――気付かなくて当然だ。視えていなかったのだから。
姉にお別れを告げると、体が軽くなったような気がした。
その瞬間、引き戻されるように私は自分の病室に立っていた。

「透子、ほら、綺麗でしょう」

ガラス窓の向こうに美しい花束を抱える母がいた。

「ごめんね。貴女のところに飾れないから、お姉ちゃんのとこに持っていくね」

驚いた。姉の部屋の花々は母からだった。

「ここを出たらお部屋を花いっぱいにしてあげるから、早く戻ってきて……」

虚ろな瞳で母が懇願する。いつも美しく着飾り、世間体第一主義の母なのに……見る影もないないほどやつれ果てた姿にボサボサの髪。こんな母を見たのは初めてかもしれない。