彼女が眩しそうに目を細め、ドアの向こうを見つめる。

「お姉ちゃんには、まだあの輝く光は見えないんだね」

彼女の言うとおり、何も見えなかった。

「光が呼んでいる」

彼女の円らな瞳がこちらを見る。

「お姉ちゃん、行くね。また会えるといいね。バイバイ」

ニッコリ笑うと小さな手を振り、彼女は……消えた。

(確かめなくては……)

ゆっくり歩みを進め、隣の部屋の大きなガラス窓から中を覗き、固まる。

(あれは……)

彼女と同じように幾本もの管に繋がれた私がベッドに横たわっていた。
その姿を見た瞬間、記憶が津波のように押し寄せてきた。

(私は……車に轢かれたんだ)

もうすぐ入学式を迎えるはずだった。中学入試に失敗してから味噌っかす扱いだった私を両親は褒めてくれた。お祝いだと姉は真新しいローファーと鞄を買い揃えてくれた。本当に嬉しかった。
そんな私に猛スピードの車が突っ込んできた。

「ご家族はどうされるのかしら?」
「このままも可哀想よね」

通りすがりの若い看護師二人が部屋を覗き込み、「移植手術、また伸びるわね」と小さな溜息を吐いた。

(移植?)

「でも、奇跡だと思わない? あれだけ大きな事故だったにもかかわらず、内臓に損傷がなかったって」

眠る私の頭には、真っ白い包帯が巻かれていた。

「それにドナーカードを持参していたんでしょう? 若いのにできた子ね」