「集中治療室にいるって聞いてすごく心配したのよ」
「ありがとう。もうどこも痛くないし、すごく身体が軽いの」

その時だった。十字路になった廊下の先から悲鳴にも似た叫び声が聞こえた。

「目を覚ましなさい、愛水!」
(……愛水?)
「あっ、おばあちゃまが泣いてる……行かなきゃ」

彼女が声の方に駆け出した。
ガタガタと歯の根が合わないほど体が震える。それなのに足が勝手に彼女を追う。

(これは……)

大きなガラス窓の向こうに仰々しい器械が溢れる部屋があった。
中央に置かれたベッドに横たわっているのは――あの子だ。
だが、彼女に縋り付く老婆の横に立っているのも……あの子だった。

(双子?)

「愛水、目を開けておくれ!」
『おばあちゃま、泣かないで』

激しく嗚咽を漏らす老婆。その背中を脇に立つあの子が撫でている。
えっ? 彼女の瞳からもポロポロと涙が零れ落ちる――が、消えた。

目の前の光景が信じられずボンヤリ佇んでいると、私の方にあの子がゆっくり近付いてきた。

「お姉ちゃん、愛水、お別れしたからもう逝くね」

澄んだ瞳が私を見上げる。

「お姉ちゃんも一緒だと良かったんだけど」
「……愛水ちゃん、もしかしたら、私も……」

ううん、と彼女が首を横に振る。

「お姉ちゃんは、まだ生かされているの」

延命装置だ。その時ようやく私の状況が分かった。

「その目で見てきたら? 長く離れていたんでしょう? この部屋の隣にお姉ちゃんがいるよ」