「ドナーがいるだろう? どうしてさっさと手術しないの?」

その疑問は至極当然だ。だが、ドナーについては知りようがないと聞き及ぶ。なのに、母親は「ご家族が、延命装置の切断を拒否されているらしいの」と答えた。秘密というものは概ね暴露されるということだろう。

「そっかぁ、僕が提供者側ならそうなるだろうね。でも……僕は供給者側だ。一刻も早く装置が切られることを願う!」

そのとおりだ。立場が変われば思いも変わる。
でも……これは何の痛みだろう? ズキンと胸が痛む。

「だからね、愛水ちゃんの話が出たら適当に誤魔化して。今、あの子の心臓に負担をかけるようなこと、聞かせたくないの」
「うん、分かった」

葵宇宙は神妙な顔で頷いた。


***


「集中治療室へ行かなくちゃ」

あの子のことが気になり、私は二人を見送ると早速そこに向かった。しかし、病院は迷路のようで、気付くと迷子になっていた。

「ここはどこ?」

昼間だというのに薄暗い廊下だ。

「お姉ちゃん?」

突然、聞き覚えのある声が背中の方から聞こえた。振り向くと――。

「愛水ちゃん!」

あの子が立っていた。