(あの子、そんなに悪かったんだ……)

ギュッと両手を握った葵宇宙が奥歯を噛み締め固く目を瞑った。

「……助かるんだろう?」

あの子の姿と妹をダブらせたに違いない。その言葉が、助かって欲しい、と叫んでいるように聞こえた。

「まだ分からない。愛水ちゃんのお祖母様が、『あの子は生きるために病気と一生懸命闘っています』と仰っていたわ」
「生きるため……闘う……」

葵宇宙の瞳からポロッと一粒涙が零れ落ちた。

「僕、僕は……最低だ。いろんな理由で生きたくても生きられない人って、いっぱいいるのに……」

私には分かった。その言葉があの屋上のことを指しているのだと……。

「ええ。寿命だと言えばそれまでだけど、幼い命が奪われるのは耐え難いことだわ。親よりも子供が先に逝っちゃうなんて許さない! どんな形であれね」

母親の言葉で、彼女も屋上の一件を知っていると悟る。
葵宇宙もそれに気付いたようだ。でも、それについて彼女は何も言わない。その代わり「ツキミは死なせない!」そう宣言した。

「脳死状態の人には悪いけど……心臓は頂くわ」

怖いほど真剣な母親の眼差しに、私は意識を飲まれそうになった。