「で、何があったの?」

廊下に出ると待ちわびたように葵宇宙が質問する。だが、「ここではダメ。中庭に行きましょう」と母親は足を早めた。そして――。

「一年って早いわね。この間、桜の季節を迎えたと思ったら、もう新緑の季節」

中庭のベンチに座ると、母親は溜息交じりに辺りを見回した。
大きな夕陽が世界をオレンジ色に染めている。
私はツツジの陰に腰を下ろし、陽に照らされた葵宇宙に目をやった。

(綺麗……)
「病院に詰めていると季節感がなくなっちゃうのよね……というより、季節を感じないほど病気と向き合っちゃうのかしら?」

視線を母親に移すと病室にいる時より五歳ほど年取ったように見えた。きっと娘の前では気を張って過ごしているのだろう。

「愛水ちゃん……危篤状態なの」

突然前触れもなく発せられた言葉に葵宇宙はキョトンとする。

「今、集中治療室に入っているの。ツキミには別の部屋に移動になったと伝えてあるわ」

絶句する葵宇宙。私もだ……。

「あの子……ツキミより元気だったじゃないか!」

数秒後、我に返った葵宇宙が声を絞り出す。

「かなり体力が落ちていて肺炎を起こしたみたい」