(でも……本当にどうしたのだろう?)

浮かない顔の母親が気になる。

「あっ、そうだ。愛水ちゃんにも後で見せてあげようっと」
(愛水? 藍田愛水ちゃん? そうだ、同室だった)

だが、その名が出た途端、母親が真っ青になった。

「ん? 香苗、どうした、顔色が悪いぞ」
「母さん、疲れてるんだよ。帰って休んで。就寝時間まで僕が残るから」
「お母さん……」

心配そうな妹に、母親はぎこちなく口角を上げた。

「大丈夫よ。ちょっと立ち眩みがしただけ、でも……そうね。宇宙がいるからお父さんと帰るわ」
「うん。お母さん、いっぱい寝て元気になってね」

心細げな妹の言葉に母親は「ありがとう」と頷くと、その髪を優しく撫でた。

「ツキミもシュン君はいいけど、安静にしててね」

「はーい」と返事をしながら妹が雑誌に視線を落とすと、「宇宙、お駄賃に何か買ってあげる」と彼に目配せした。

「お父さん、ちょっとツキミを見てて下さいね」
「いってらっしゃーい」

何も知らない妹の言葉を背に二人が病室を出て行く。当然、私も後に続く。