自覚した瞬間から私は恋する乙女になった。
葵宇宙の背中を見つめるだけで、胸の鼓動が駆け足を始める。

「あっ、お父さん、お兄ちゃん」
「よっ! 今日は熱、なさそうだな。でも、これを見たら……」

ニヤリと笑って雑誌を妹に手渡す。

「うわぁ、シュン君のアップ! お兄ちゃん、ありがとう」

キャッとハートマークの付いた奇声を上げ、妹は雑誌を抱き締める。
言った通りだろ、というように葵宇宙が父親を見ると、父親はむくれた顔で「母さんは?」と訊く。

「うーんとね……あっ、帰ってきた」
「賑やかだと思ったら、いらしてたのね」

サイドテーブルに母親が花瓶を下ろす。が、どうしたのだろう、いつもの明るさがない。

「何かあった?」

葵宇宙も気付いたようだ、小声で尋ねる。
それに対して母親は、『後でね』というように目配せした。どうやら、妹の前で言いたくないみたいだ。
分かった、というように頷くと、葵宇宙は父親対妹のバトルに加わった。

「父さん、だから言ったじゃないか」
「シュン君の良さが分からないお父さんなんか……お兄ちゃん、連れて帰って!」

プーッと頬を膨らませる妹に、意気消沈の父親、呆れた様子の葵宇宙……微笑ましくて見ているだけで目尻が下がる。本当羨ましいほど仲がいい家族だ。