「でも、美雪君とはあまり会って欲しくないんだ。多少は目を瞑るが、香苗がな……ヤキモチを焼くんだ。宇宙を取られるって」
(何それ?)

葵宇宙も声を上げて笑い始めた。そして、その瞳から涙が溢れた。

(柊木先生、浄化するのは先生じゃなかったみたいです)

悔しそうな柊木先生の顔が思い浮かび、私も泣き笑いする。

「宇宙、一緒に病室に行こう。ツキミが待ってる」
「そうだね……でも、ツキミが待っているのはこの雑誌」

手の甲で涙を拭くと葵宇宙はそれを見せる。

「あいつ、表紙のこのアイドルが好きなんだ。これが初恋なんだってさ」

「何!」と父親が雑誌を取り上げ、表紙をジッと見つめる。そして、「こんなチャラチャラした男のどこがいいんだ!」とわめき出した。

「それ、ツキミの前で言ったら確実に嫌われるから」

父親から雑誌を取り戻すと葵宇宙は、「行くよ」と言って歩き出した。その後ろで父親は尚も文句を言う。

「くそっ、ツキミは絶対に嫁に出さんからな」
「小学生相手に何言ってんの?」

病気のことなどすっかり蚊帳の外だ。
父と息子……言い争いながらも、二人の背中は楽しげだった。

(よかった。葵宇宙の闇は消えた)

もう、疫病神だとか、魔法使いになりたいとか思わないだろう。