「香苗さんって、当時は父さんの秘書だったよね? 母さんが生きていた時からの付き合い?」

「まさか!」と父親の顔に怒りが浮かぶ。

「だよね、父さんは母さん一筋だったもんね。結婚したのは僕のためだったんでしょう?」

えっ、とクエスチョンマークを貼り付けた顔で父親が葵宇宙を見る。

「僕のせいで母さんは死んだのに……父さんは母さん似の僕を憎み切れず、でも、一緒にいるのが辛くて他人の手に委ねることにした。香苗さんを利用したんだ! 違う?」

葵宇宙が怒りの籠もった言葉を吐き捨てる。

「お前は何を言っているんだ? そんなことを……ずっと思っていたのか?」
「誤魔化さないでよ!」

突き刺さるような鋭い視線が父親を睨む。

「香苗さんは良くできた人だと思うよ。未だに母さんが忘れられない父さんに仕えているんだから」

一気に言い、葵宇宙フーッと息を吐き出した。

「僕は年々母さんソックリになっていく。なのに香苗さんは僕を本当の息子のように可愛がってくれる」

グッと唇を噛んだ葵宇宙が絞り出すような声で言う。

「僕はそれが辛いんだ。葵家にとって僕は疫病神なんだよ!」

悲痛な心の叫びだった――胸が痛い。