「宇宙」

ベンチの一つに腰掛けていた男性が葵宇宙の名を呼んだ。

「父さん、お待たせ」

父親？　グレーのスーツが良く似合うダンディな男性だった。だが、想像していた父親と違った。美しいと言うよりも男臭いイケメンだった。やはり美雪さんが言っていたように、葵宇宙は亡くなった母親似なのだろう。

「美雪君に会ったんだって」

「えっ！」と葵宇宙が目を剥く。

「何で速攻バレるんだよ？」
「隠し事など百万年早い」

葵宇宙の反応を可笑しそうに見ながら、「田中がお前たちを見たそうだ」とネタ元をバラす。

「リカーショップ田中？　あのお喋りジジイ！」
「ジジイって、あいつ、美雪君とそう変わらないんだぞ」
「嘘っ、三十三歳！　あの太鼓腹は中年親父そのものだよ」

まあな、と父親が苦笑する。

「それで、もう、美雪叔母さんには会うな、と言いたくて呼び出したの？」
「察しがいいな。香苗は気にしないと思うんだが……」
「父さんが気になるんだ」

間髪入れず葵宇宙が言う。

「父さんには後ろめたい理由があるからね」
「どう言う意味だ？」

葵宇宙はそれに答えず、逆に質問する。

「父さんは香苗さんとどうして結婚したの？」
「どうしてって……」

どう返事をしたらいいのか戸惑っている父親に、葵宇宙が落ち着き払った様子で言った。