だが、どんなに変わった学校だとしても、優秀な者たちが集まる高校ということに変りはない。それを思うと頬が緩み、胸が弾む。

(ようやくだ! やっと自分が取り戻せる)

人の流れに逆らい校舎に入ると目的の場所へと歩みを進める。
姉の言葉をもう一つ思い出したのだ。

『本当は立ち入り禁止なんだけど、花見見物の特等席は南館の屋上みたい。わたしは足を踏み入れたことはないけど、そこからの眺めが本当に素晴らしいらしいわ』

もう、いい子は止める。その一歩がこれ。

(美しい景色を見てやる!)

メラメラと燃える闘志が胸を熱くする――が、それはほんの一瞬だった。ひっそりした校舎の中はヒンヤリとしていた。身体に纏わり付く冷気が心地良い。
今まで気付かなかったが、どうやら慣れない環境に相当緊張していたようだ。体から力が一気に抜けていく。
当然だ。私は孤独を愛する引きこもりなのだから。あれだけ騒がしい場所は久し振りだった。
そんなことを思いながら黙々と階段を上がり、三階から屋上に差し掛かった時、ふと思った。
立ち入り禁止なら鍵が掛かっているかもしれないと。だがそれは杞憂だった。