彼女の美しさと頭脳が羨ましかった。その十分の一でも授かっていたら……と思わずにいられない。
葵宇宙は姉以上の顔と頭を持っている。なのに……彼は私以上に憂いでいるように見える。

「君ってカメレオンみたいだね。真の姿は何色だい?」

タイミング良く、私の疑問を呈するような質問を柊木先生がする。

「さあ……無色透明ですかね?」
「スケスケってことかぁ?」
「先生の言い方、エロい。スケベ爺みたいですよ」

侮蔑の眼で葵宇宙が柊木先生を見る。

「お前なぁ、エロは三大欲求の一つ。人間には大切なものなんだぞ。そんなことも分からないからスケスケ、なぁーんにもないんだ」

葵宇宙の眉間に皺が寄る。

「先生が嫌われる原因って、その無神経な性格も! じゃないんですか? 治した方がいいですよ」

もうこの話は終わったとばかりに、「じゃあ」と片手を上げると葵宇宙はその場を後にした。

教室に戻ると、彼は窓側の自分の席でいつものように頬杖を付き、校庭の方をボンヤリ見つめていた。こういう彼には誰も声を掛けない。触れれば切れそうな雰囲気があるからだ。

私も文庫本を読み始める。私に声をかける者もいない。
無色透明なのは葵宇宙ではなく私の方かもしれない。でも、私はその方が気が楽だ。