「なのに、病院のヘルプ? 矛盾していませんか?」

葵宇宙の言葉はもっともだ。納得したならキッパリ足を洗えばいいと思う。

「あのさぁ、少し引いたとこから物事を見ると、かえって見えてくるものってない? あれなんだよ。医療の現場を離れて、初めて患者と真剣に向き合いたいって思ったわけ」

葵宇宙がチッと盛大な舌打ちする。

「本当、クソ医者だね。後手後手過ぎる」

そう言いながらも彼は、「でも、まぁ、頑張れば」と応援めいた言葉をかけた。

いいところあるじゃないと感心した途端、「但し、妹は絶対に診るな! 寿命を縮めたくない」と意地の悪い言葉を吐く。

本当、素直じゃないなぁ、と思いながらも口角が上がる。
当の柊木先生も口元に笑みを浮かべ言う。

「誤解しているようだけど、俺、これでも医大を首席で卒業しているんだけど」
「神様も無駄な人に才を与えたものだ」

露骨に溜息を吐く葵宇宙に――私も激しく同意だ。

「君って本当に失礼な奴だね」
「お褒め頂き恐縮です」

葵宇宙がツンとソッポを向く。その横顔に陽の光が射し、一瞬見惚れる。――絵画のように美しい――こんな人を私はもう一人知っている。姉だ。