「……誰も。でも、僕には分かるんです。だって……」と言いかけて葵宇宙は言葉を飲んだ。

「だって、何だ?」

柊木先生の鋭い視線が葵宇宙をギッと睨む。

「蛇の生殺しもいいとこだ。吐け! 吐いてしまえ!」
「絶対に言いません」

再び布団に潜ってしまった葵宇宙を見下ろしながら柊木先生は、「必ず吐かしてやるからな」と、刑事の捨て台詞みたいな言葉を残して仕事に戻った。

(本当、つくづく大人げない人だ)


***


あれ以来、柊木先生も葵宇宙の周りをウロウロし始めた。『だって』の続きを探っているようだ。
私的には柊木先生が葵宇宙から聞き出してくれたら好都合なのだが、葵宇宙的には迷惑極まりないようだ。

「先生、ストーカー行為で訴えますよ」

苦虫を噛み潰したような顔で応戦する葵宇宙に、「それなら俺は」と柊木先生は大人の余裕で応じる。

「行為の理由を詳細に説明して、危険極まりない人物、という理由で君を二十四時間僕の監視下に置かせてもらえるようにするまでだ」

悔しそうに唇を噛む葵宇宙を見ながら、柊木先生は、どうだ、とばかりに鼻を高くする。

「本当、そんなんでよく医者になれましたね?」

眉をひそめる葵宇宙に、「当然だ!」と柊木先生は胸を張る。