「分かってる。無茶なこと言ってるってことは……」

「あっ、まさか」柊木先生の顔色が変わる。

「君は自分の心臓を、妹さんにあげようとしているんじゃないだろうね?」

えっ? じゃあ、やっぱりあの時、彼は自殺しようとしていた……ということ?

「それは違います。あれはあくまでも魔法使いになろうと……でも、飛べずにそこで寿命が尽きたら、それまでだと思っていました」
「君はそれをあくまでも自殺ではない、と言うんだ?」

そうです、と葵宇宙は真摯な瞳を柊木先生に向けた。
彼の言っていることは……屁理屈だ。

「それは、自殺という行為で家族を悲しませたくないからか? だが、どんな理由だとしても君がこの世を去ったら、たとえ妹さんが助かったとしてもご家族は悲嘆に暮れるだろうな」

柊木先生の言う通りだ。

「でも、僕より妹が生きている方がいいんだ……」

さっきまでの太々しい態度は消え失せ、弱々しい声がポツリと呟いた。

「命に重いも軽いもない。妹さんより君が価値のない人間だと誰か言ったのかい?」

柊木先生は心底怒っているようだ。だがその声には悲哀が籠もっていた。

私には何となく葵宇宙の気持ちが分かる。姉と私なら……十中八九、両親は姉を選ぶだろう。