ヴェルト・マギ―ア ソフィアと黒の魔法教団

カレンさんはサファイアを見下ろすと言う。

「それでも人の為に研究を続けていたお兄様は、禁忌の魔法にまで手を伸ばしてしまって、悪魔と契約を交わしてしまいました」

「でもそれはカレンさんのせいなんかじゃ!」

「いいえ、私のせいです!」
 
カレンさんは力強くそう叫んだ。

「だから私は一生をかけてこの罪を背負い続けます」
 
あこがれだったお兄さんが自分のせいで道を外してしまい、禁忌の魔法にまで手を出させてしまった。その罪をカレンさんは一生かけて背負い続けると言った。

「カレンさんの思いは分かりました」

「ソフィアさん……」

「でも……これだけは言わせて」
 
私はカレンさんの手を掴んで言う。

「私を助けてくれてありがとう」
 
その言葉を聞いたカレンは優しく微笑んでくれた。

「話は終わったか?」
 
いつの間にかアレスが病室の中へと入ってきていた。

「ロキは?」

「あいつは廊下で待機中」
 
その言葉を聞いたカレンさんはクールな雰囲気をまとう。

「それじゃあ私たちはこれで失礼します」
 
カレンさんはアレスの横を通り過ぎると足早に病室から出ていった。

「ロキ行くよ!」

「いででででっ! 耳を引っ張るな!」
 
そんな二人のやり取りが聞こえ私は軽く笑った。

「騒々しくて悪いな」
「ううん。面白い人たちだったよ」
 
アレスは少し苦笑しながら椅子に座った。

「体の方は良いのか?」

「うん、雫の検査とかあるからもう少し入院しないと駄目だって」

「そうか」
 
アレスは小さく呟くと私の髪に触れる。
 
あの時アレスが私の名前を呼んでくれなかったら。私はどうなっていたのだろう? 

力に飲み込まれて私という人格がなくなっていたかもしれない。それに……アレスの前であんな子供みたいに泣きじゃくるなんて。

あんなに思いっきり泣いたのはいつ以来だろう?
 
私は安心したんだと思う。アレスが生きて居てくれ良かったと、アレスを失わずに済んで良かったと。

「ねえ、アレス……」

「なんだ?」
 
アレスの顔をじっと見つめて言う。

「どうして、命を張ってまで私を助けてくれたの?」
 
その質問にアレスは黙り込んだ。
 
もしかして聞いて良いことじゃなかった?

「そんなの決まってる」
 
アレスは私の腕を引くと優しく体を抱きしめてくれた。

「アレス?」

「ソフィアは俺にとって大切な存在だから」
 
その言葉を聞いて心臓が大きくはねた。大切な存在ってどういう意味の?

「そこから先は聞くなよ」
 
私の心でも読んだのか先手を打つようにアレスがそう言う。

「き、気になるじゃん!」

「良いだよ。気にしなくて」
 
そんなこと言われて気にしない子は居ないと思う。
 
そう思いながら溜め息をついた私は、アレスから離れると言う。
「じゃあ、聞かない事にする」

「そうしてくれ」
 
そう言って苦笑したアレスの姿を見て軽く笑う。そんなアレスを見た私は病室の中から青空を見上げた。

★ ★ ★

今回のヴェルト・マギーアを巡る戦いは無事に幕を下ろした。しかし今回の事件はまだ序章に過ぎない。
 
ある者は一族の復興を願い、ある者は愛する者の為に生き続け、ある者は約束をした者を待ち続けている。

「ここを離れている間に強い魔力を感じたんだが……」
 
ここには確か教会が建っていたはずだ。しかし目の前に見える教会は損壊が酷く、とてもじゃないが教会と呼ぶにはもう難しいだろう。

「まあでも……ここに来て正解だったか」
 
俺は微かに残っている魔力を感じ取り拳に力を込める。

「ようやく見つけたぞ魔人族」
 
小さくそう呟き珍しく晴れた霧の中から、青空が顔を出している事に気がついた。

俺は青空を見上げて言う。

「もう少しだから……待っててくれ……オフィーリア」
 
首から下げられている翡翠石を掴み俺は青空に誓うように手を伸ばした。









ヴェルト・マギーア ソフィアと黒の魔法教団 END
あの事件から一ヶ月――

アレスのもとに一通の手紙が届いた。

その手紙によりソフィアはアレスと一緒にある島へと行くことになる。

なんとそこは竜と人間が共存する島だった。

そこでソフィアは竜人族のザハラに出会う。

ザハラはソフィアたちにある竜を探して欲しいと依頼する。

竜の名は【エーデル】

竜と竜人族たちが住む島――【ラスール】の守り神だった。

そこでソフィアは竜人族と魔人族の関係へと近づいて行く事になる。


次回――ヴェルト・マギーア ソフィアと竜の島

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