「うっひょひょ~~ やっぱ、ここらの森って、特に強~~烈」

 まだ、陽の光もある昼間だと言うのに、魔王の国の周辺には、ヒト食い妖魔がうじゃうじゃ出た。

 俺は最初、盗賊の名に恥じず、緑むせかえるような森を音も立てずに、注意深く歩いていたのだが。二組四本の鎌をもつ、人の背丈の三倍ほどの凶悪な昆虫に見つかったのが、いけなかった。

 追いかけてくる、それから逃げるため。

 小屋の床ほどもある平たい葉が、何枚もテーブルみたいに連なる、天然広場の上を走ったり、跳んだりして、逃げたら、俺の背後から、いきなり、めきめきっ、と音がした。

 何だろうと思って恐る恐る振り返って見れば、俺の乗っている葉の隣のヤツが、中心から折れ曲がり、さっきから追っかけて来る鎌昆虫を包み込んで、ばりばり食べているトコロだった。

「うひょっ! おっかねぇ~~!」

 葉が閉じる条件が乗っている時間なのか、重さなのか、よくわからねぇ。

 自分の足元にあるヤツも、ピクリと動いた気がして、俺は、必死に逃げ出した。

 ………………

 ……結局、俺は、ジジィの依頼を受けて、下着泥棒をすることになった。

 とりあえず、男の部類には入るらしい魔王の、パンツを眺めて喜ぶ趣味のヒトになったわけでは、断じて、ない!

 金貨五百枚と言う、高額な報酬に目がくらんだのだ!!

 ……って、こっちの理由もあんまり良くねぇな。

 やっぱ、邪悪な魔王から国を救うべく、立ち上がった一介の盗賊って方がカッコいい。

 今度、酒場で自慢話をするときは、そ~~言うコトにしておこう、うん。

 …………魔王が住む城は、国の中心ではなく、森と城下町の境にある。

 町から入る正規の道では、魔王が見張っていて城にこっそり入るのは不向きだ。

 だから、裏口から城に入るべく、魔の森を渡ることにしたのだが……

 俺みたいな招かれざる客を避ける、番犬代わりのつもりなのか、城の裏側には、凶悪な妖魔が、山ほど住んでいた。

 俺はその妖魔たちを倒すほどの、莫迦力はない。

 けれど、追いかけて来るヤツをかわし。

 自然にできた罠を解除し。

 それなりに、順調に森を進んでいた。

 ……はずだった……の……だが。

 
 あ゛ん゛ぎゃあ~~


 耳障りな怪鳥らしき鳴き声と、ばさっ ばさっ という巨大な生き物が、今、まさに飛び立とうとする音が聞こえた。

 何事か、と音の出所の左斜め前を見れば、魔王の国を出て、果てしない森の深部に続くその先に、開けた広場が見える。

 その場所から、一羽の怪鳥タイプの妖魔が、天空に向かって駆け上がるところだった。

 ……でかい!

 さっき、俺を追いかけて来た四本鎌の昆虫タイプもデカかったが、これは、さらに巨(おお)きい。

 身の丈は、およそヒトの十倍弱はありそうだ。

 全体は、白銀の水晶のような羽毛に覆われている鳥に近い。

 二つあるアタマのそれぞれに、ルビーみたいな瞳とくちばしが一つづつ、ついているところを除けば、だが。

 異形の妖魔の中でも、一番美しい、と言われ。しかし、反面、最高に凶悪な白銀の妖魔と言われる『ルブルム』だったのだ。

 その、鳥にヒトらしきモノが一人、捕えられているのが見えて、驚いた。

 女……いや、男か?

 地面を引きずりそうなほど、長い銀髪が、ルブルムの毒のある琥珀色のカギ爪に引っ掛かり、今にも空に、連れさらわれて行きそうだったのだ。