そんな初めての出会いから、おばあちゃんと男の人との、そこでの交流が続くこととなる。約束を交わすことはしない。けれど、何故かそこで偶然顔を合わす。
髪に白いものが一本二本と混じるようになり、目尻に消えない笑い皺が刻まれるようになっても。日々の憂いに動じることも減っていき、そこに訪れる回数が比例して少なくなっても。それらを互いに気にするふうでもなく。
時折顔を合わせては、男の人はおばあちゃんへと何かしら食べ物を投げて寄越す。腹が満たされればなんとでもなる、と。
次第に遠慮のなくなったおばあちゃんは弱音や文句を一方通行に漏らすようになった。男の人から慰めはなかった。鼻で笑われたりもしたけれど、憐れまない態度がおばあちゃんにはありがたくて。
心地もよくて。
気付けば十年過ぎていた。
その時間は、さらに続いていった。
「もう、憂うことはなくなったか?」
子どもたちは成人し、おばあちゃんの手を離れていた。
そう問われたとき、おばあちゃんの腕の中には生後間もない私という孫がいた。
「一緒に来てはくれないか――ここではないところへ」
ずいぶんと逞しくなったおばあちゃんは、けれどもあの場所に時折足を運んでいた。
そんな折に、男の人から言われた言葉だった。
初めて会ったときに言われた言葉と似ていた。以来、聞いたことのなかった言葉は、そのときよりも情熱的で。
叱咤激励の類いだと思っていた。皮肉のようなものだとも。
それは違う、解っていたのではないかと、おばあちゃんはそのとき自覚した。自分の正面に立つ男の人から差し出された、一輪の綺麗な花を目にしたときに。見たことのない綺麗な花は、違う尊い世界にしか咲かないと思えるほどの美しさだった。いつか話したかもしれない、おばあちゃんの好きな色の、淡い空色の花。
おばあちゃんは、ゆっくりと首を横に振り、一緒には行けないと伝えた。