「……座敷、わらし?」


「阿呆。……まあ、似て非なるものだ」


男の人は最初、私が自分の姿を認識出来ることに驚いていた。そうして次は、その外見に怯えないことに。
男の人の目の辺りは白い布に呪文のような文字が施されたもので隠されていて、それなりにこの世のものとは一線を画したものだった。頭巾や着物も相まり、異質さはより際立っていて。
驚きは、僅かな口元の開きでしか窺えなかったけれど。


何故私が、この身内でもない突然現れた男の人を怖がらなかったのかは分からない。
なんとなくではあるけれど、懐かしいなと受け入れてしまったのだ。現代にそぐわない召し物や風貌、目の辺りを覆う白い布、あやかしめいている全てが、読んだことのある伝記やなんやかんやと重なり、ノスタルジアを感じたのかもしれない。
座敷わらしなのかと訊ねたときの皮肉を含む声色の返事には、生物としての隔たりはあまり感じなかったけれど。
気さくな、人間ではないもの。


「別れを、しに」


そう呟き、その座敷わらしに似て非なる男の人は、おばあちゃんの枕元、私の隣にに腰を下ろした。
冷たくなったおばあちゃんの頬に大きな手のひらを触れされようとして――やめる。その行動に、自戒の念を感じた。


触れたいと、その気持ちが溢れて私にまで伝わってくる。けれど、触れないと決めているのか。
一度揺らいだ決心に耐え、おばあちゃんが亡くなったことに耐えているような……全身で泣いているようにしか思えない姿に、私はそっと、その背中を撫でた。