帰国子女になりたくて別になったわけじゃない。
 すべては家庭の事情だ。

 それなのにそれを知られると、人は大げさにそのことを取り上げ、異物が混じった人間のようにどこか接し方がぎくしゃくする。

 帰国子女 ──どれだけ違った目で見られたことだろう。
 春日ユキの脳裏には嫌なことが次々と映し出される。
 育つ環境が違えば、習慣も常識も考え方も違ってくる。

 どうしても日本と比べてしまう癖がついて、自分が納得できない日本の習慣にぶち当たると、はっきりと口にしてしまうのだ。

「アメリカでは……」

 その出だしから始まる言葉は、日本でしか育ったことのないものには耳障りだった。

 ちょっと英語が話せるからって――
 お高くとまって生意気よね――

 陰でそんな言葉が飛び交う。

 一度マイナスな印象が付きまとうと、それはからかいの対象となり、挙句の果てには虐めへと続いていく。

 ユキにもプライドがあるため、自分はみんなと違うことを十分理解し、そして自分を貫こうともがいてしまう。

 それがアメリカナイズと揶揄され、あざ笑われるのだった。

 心を柔軟に開く事ができないユキは、常に自分で一人ぼっちを選んでしまう。

 自分でも何かが欠けているとわかりながらも、すでに色眼鏡で見られた状態だと自分ひとりではどうにもならなかった。

 そこへ突然名指しされた二人の留学生の面倒。ぺらぺらと英語を話せば、またクラスの反感を買うに決まっている。

 だからといって、英語を話す行為が萎縮すべきことでもないのもわかっている。
 面倒くさい問題をこれ以上拗らすのが嫌なだけだ。

 これが外国から来た二人を歓迎できない理由だった。
 虐めの種が増えるのが目に見えていた。