『中堂麻です。冬休みの間お世話になります。よろしくお願いします』

 たったそれだけ。大丈夫。


 そう自分に繰り返すも、鼓動は徐々に速まって行き、次第に息苦しくなっていく。



 なんで。

 たくさん練習したのに。
 その時は大丈夫だったはずなのに。


 三門さんを追いかける足が止まる。足が重い。

 小刻みに震え出す両手を胸の前で握りしめた。


 「麻ちゃん?」


 三門さんが不思議そうに私の名前を呼んだ。


 ダメだ、三門さんにも変に思われる。

 ちゃんと話さないと、他の人と同じように。


 震える唇を開こうとしたその時、ぽんと頭に温かい何かが触れる。

 はっと顔をあげれば、私の頭に手を乗せて柔らかく微笑む三門さんと目が合った。