「これで最後かな。忘れ物はない?」
来た時と同様にスーツケースを軽々と持ち上げた三門さんは部屋を見回しながらそう尋ねる。
「はい、大丈夫です」
「よしじゃあ、行こうか」
私の返事にひとつ頷き、歩き始めた。
社頭に出ると、真っ先に本殿の前に向かった。二礼二拍手一礼をいつも以上に丁寧に行って、しっかりと手を合わせる。
お世話になりました。ありがとうございました。
しっかりと心の中でお礼を言う。本殿の奥から優しく風が吹いたような気がした。振り返ると、スーツケースを担ぐ三門さんの足元にみくりとふくりの姿がある。
二匹のもとに駆け寄って、その首元にぎゅっと抱きついた。ふくりが頭を私の頬に擦り付けてくる。みくりもぶつぶつと文句を言いながらも、大人しく抱きつかせてくれた。