「それ、家鳴っていう妖が書いたんだよ」


 紙を広げたお母さんは口元を押さえ目を見開いた。

 一番に目に飛び込んでくるのは、紙目一杯に拙い字で書かれた「なくな」の文字。その隙間には家鳴たちの小さな手形が所狭しと押されている。それほどたくさんの家鳴が、『なくな』とお母さんを励ましているんだ。お母さんのそばにいたんだ。

 お母さんは、本当は妖もこの神社も嫌っていない。本当に心から大嫌いなら、家鳴たちからこんなにも愛されるはずがない。


 「夢で見たの、昔のお母さん。家鳴たちがね、そばに寄り添ってたよ」


 あっ、と声をあげた。いつの間にそんなところにいたのか、お母さんの靴の陰から家鳴がひょこっと顔を出す。「なー、なっ」と手を伸ばす。夢の中でも彼らは、いつも涙を流すお母さんのそばに寄り添っていた。


 「足元に一匹、今も、泣くなって言ってるよ。心配そうに見上げてる」


 驚いたように目を丸くして、足元を見下ろした。


 「お母さん、本当は嫌ったりなんかしてないんだよね。妖のこと、本当は大好きなんだよね?」