お母さんが弾けるように振り返った。
憎しみと恐れの色に染まった目で睨みつけられる。あの日と同じだった。喉の奥が締まる感覚がして、言葉に詰まる。けれど今日はどうしても、伝えたいことがあった。腹の底に力を入れて、大きく息を吸う。
「松野の力、おじいちゃんが封印していたの。それが少しずつ弱まってきているんだって。初めは、自分でもどうにもすることができなくて、それが結果お母さんを傷つけてしまって、恐ろしかった」
でも、と続けた。
「三門さんから教えてもらって、上手くないけれど操れるようになってきたの。私の言葉で救われたって、言ってくれた妖もいる。だから、もう二度とあんなことにならないように頑張る。絶対約束する。だから、だから嫌わないで。傷つけてごめんなさい」
無意識に口にして、ようやく気が付いた。私がここへ来たのは、お母さんに嫌われたくなかったから。お母さんをまた傷つけたくなかったから、ここへ逃げてきたんだ。向き合うことも話し合うことも恐れていた。なぜなら、嫌われることが怖かったから。
溢れそうになった涙は、お母さんのその表情をみるなりすっと引っ込んだ。なぜならお母さんの方が頬を引っぱたかれたような、傷ついた顔をしていたからだ。