険しい顔をしたお母さんが少しずつ近付いてくる。十歩ほど離れたところで立ち止まる。その距離がとても悲しかった。


 「帰る支度は済んでいるの」


 小さく首を振ると、お母さんは疲れたように額を押さえて溜息を吐いた。


 「さっさと帰るわよ、こんなところ。こんな、うす気味悪い神社にいたら、頭がおかしくなりそうよ」

 「っ、お母さん……!」


 きつい口調で呼んだその瞬間、伸ばした手を振り払われた。弾けた自分の手がスローモーション映像のように見えて、一瞬何が起こったのか理解できなかった。数秒おくれて痛みを感じる。気が付いた時には、お母さんは私に背を向けていた。


 「……早く帰る準備を整えなさい」


 背を向けたままそう言って、その場から立ち去ろうとする。今ここで呼び止めなければ、すべてが終わってしまうような気がした。


 「全部教えてもらったの!」


 お母さんは動きを止めた。


 「この神社のことも、力のことも、全部三門さんから聞いた。大輔おじさんから、お母さんのことも聞いた」