みくりはあくまで「ついで」といった口調で、汚れた口元を前足で拭いながら淡々と言った。

 そんな態度に、ふくりと顔を見合わせた。お互いに笑いを堪えた顔だった。


 「可愛くないね」

 「現世では“つんでれ”と言うんだろう?」

 「よく知ってるね」


 ふふ、と堪えきれずに笑い声をあげたその時、



 「────麻?」



 背後で砂利が踏みしめられる音がして、びくりと肩を震わせた。


 「誰と話しているの」


 その問いかけにゆっくりと振り返る。みくりの台のそばに、お母さんが立っていた。険しい顔をしたお母さんは私と目が合う瞬間にふっと目を伏せる。ずきんと胸が痛んだ。


 「昭徳の娘か」


 みくりが少し驚いたように目を見開いた。