社の前まで帰ってきた。鳥居をくぐると社へ続く階段は登らずに、鎮守の森へとそれていく。丁度反対くらいの位置まで歩いてきて、朽ちかけた朱色の鳥居が見えた。裏の鳥居だ。私はそこで足を止めた。

 ポケットに入れていたお手玉を取り出す。少し布が擦り切れたものがひとつ、そして不格好だけれどもそれによく似たものが三つ。私が作ったものだ。


 鳥居の足のそばにそれを置いた。妖の作法は分からなかったので、人の作法で手を合わせる。


 ケヤキが兄弟たちと笑っていますように。

 そう願わずにはいられなかった。


 立ち上がって鳥居を見上げると、強い風が吹いた。屋根のように鳥居に覆いかぶさる木々たちが大きくうねりながらざわめく。恐ろしさはなかった。まるで何かに答えるように、優しい音を立てていた。