葵と別れたあと、次に町のはずれの方を目指して歩いた。
橋を超えてどんどん進めば、建物が少なくなり、膝の高さくらいまである草が生い茂るところにでた。それを割くようにしてある一本道を突き進むと、一軒家が見えてくる。迷わずそこへ向かってインターホンを鳴らすと、年老いた女性がにこやかに出迎えてくれた。
「麻ちゃん、いらっしゃい」
「おはようございます、三田さん」
買ってきた稲荷コロッケをひとつおすそ分けすると、彼女は目尻に皺を寄せて微笑んだ。「最近、遊びに来てくれる狐さんがいるの。彼と半分こするわ」と嬉しそうに聞かせてくれる。
用意してきた質問は尋ねるまでもなく、彼女はとても幸せそうだった。
戻る道のりで、中型犬くらいの動物が、草の陰に隠れているのが分かった。立ち止まってじっと目を凝らしてみる。黄土色の毛並みを持つすらりとした狐が、その場に座ってこちらをじっと見ていた。やがて狐は、クオンクオンと二度鳴くと、毛並みを黄金色に輝かせながら風のように翔けていく。そこには迷いなんてなかった。
ああ彼もまた、後悔はしていないんだ。
小さくなっていく背中を最後まで見送って、私はまた歩き始めた。