お父さんたちが起きだす前に、先に朝食をとって社を出た。

 今日の昼過ぎにはここを発つ。それまでにしなければならないことがたくさんあるんだ。ババから貰ったお財布を首から下げて、まずは河原沿いを歩き駅の方へ向かった。


 三門さんから「お昼ごはんに」と頼まれた『みいと村松』の稲荷コロッケを調達すると、来た道を戻りながら彼女の姿を探す。

 岸辺に降りて木を見上げながら歩いていると、思った通り、彼女は木の太い枝に腰掛けて鼻歌を歌っていた。木の根元に立ち、彼女の名前を呼んだ。


 「葵!」


 ん? と天狗面を少しずらして私を確認するなり、葵は枝から飛び降りて、その勢いのまま私に抱きついてきた。


 「何だよ、何だよ! こんな朝早くから来てくれるなんて。すごく嬉しいぞっ」


 天狗なのに、葵のお尻から犬の尻尾が見えたような気がした。

 回された手がぐいぐいと首を絞めつけて、「ギブギブ」とその二の腕を叩く。満足げに鼻を鳴らした葵は「こっちに来いよ」と私の手を引き、倒木に先に座ると、隣に座るよう促した。