溜息を吐いた三門さんは「麻ちゃんに『ごめんなさい』した子から行ってよし。ちゃんと水を浴びて墨を落とすこと」と言う。
落ち込んだように肩を落とした家鳴たちが私に歩み寄ってくると、一匹ずつ頭を下げていく。もうしないでねと言ってみたが、家鳴りはきょとんとした顔で首を傾げてさっさと本殿から出て行った。
遠い目をしながら「油性ペンって何で落ちるんだっけ」と考えた。
「それにしても、どうして家鳴や机まであんなに墨まみれになっていたの?」
「家鳴がお母さんに手紙を書きたいって言ったから、文字を教えていたんです」
「ああ、机の上にあったあれだね」
知っていたらしく、納得とばかりに頷いた。そして「ん?」と首を傾げる。
「どうして真由美さんに? 真由美さんは妖が見えないわけで、家鳴とも会ったことはないはずだよね……あ、まさか」
直ぐに何かを察した三門さん。ぎくりと肩を震わせると、三門さんは額に手を付いて深く息を吐きだした。