「抱きしめる……投げキッス……あ、もしかして『好き』ってことかな?」


 そうそう、と大きく頷いた彼らは嬉しそうに隣の家鳴と抱きあう。

 『大好き』
 『元気だして』
 『おかえり』
 『嬉しい』
 『泣くな』

 彼らが出した単語を並べていく。


 すると、ひとりだけ除け者にされていて退屈だったのか、墨まみれになったあの一匹が、硯から飛び出してきた。ぺたぺたぺた、と紙の上を歩き、いたる所に足跡を付けていく。

 それを見た瞬間、他の子たちの目が一斉に輝いた。


 「あ、まずい」と思ったのもすでに遅かった、硯に次々と飛び込み始めた家鳴たちは思い思いに手形や足形をつけていく。お互いに汚し合って遊ぶその横顔は、なんとも楽しそうだった。


 「ああー……もう諦めるしかないね」


 苦笑いを零しながら、机に頬杖をついてそれを眺める。楽しそうだから良いか。

 そうして夜が更けていった。