「昔、お前と柿を取っていた時に、木の上から投げたそれがお前の頭に当たってなあ。まだ熟す前の柿のようだったから、そのせいかもしれんの」

 「えっ、うそ!」

 「嘘だ」


 カッカッカ、と円禾丸は愉快そうに腹を抱えて笑った。眉間に皺を寄せて睨みつける。「悪かった、そう腹を立てるな」と口では言っているが、悪びれた様子はない。


 「まあ、全く覚えていないというのは不思議だが、忘れてしまったことは仕方がない。長い年月を経て物に魂が宿ったものが“付喪神”だ。私は私の刀身に魂が宿って、付喪神としてこの姿になったのだ」


 今度はいたって真面目な顔でそう教えてくれた。


 「物なら何でも?」

 「ああ。ここにある物は、皆付喪神になっている」


 両手を広げて振り向いた円禾丸につられて、私も辺りを見回した。
 ひとつひとつが大切にガラスケースに収められているそれらは、鏡だったり筆だったり、とにかくいろいろな物が一ケ所に集められている。埃っぽい場所だとは思っていたけれど、ひとつひとつとても大切に扱われているのが分かった。