随分と親しげに名前が呼ばれ、一層困惑する。彼の口ぶりからすると私たちは顔見知りのようだが、私は彼のことを一切知らない。ここへ来てからそう言うことばかりだ。
円禾丸と名乗ったその男に両頬を手で挟まれぐにぐにと揉まれる。
「おお、そうだそうだ、この羽二重餅の頬はまさに麻だ」
されるがままになっていると、円禾丸は満足したのか手を放してその場にどかりと座り込んだ。
「あの、ごめんなさい。私、小さい頃のことはあんまり覚えていなくて。ツクモガミって何ですか?」
顔色を窺いながら恐る恐る尋ねると、円禾丸は目を点にして私を見上げた。
「覚えて、いない?」
奇妙なものでも見たかのような顔で反復する。私が一つ頷けば、途端に難しい顔をして黙ってしまった。