膝に顔を埋めてもう一度深く息を吐いたその瞬間、
「久しぶりの盗人かと思うて張り切っておったのに。なんだ、ただの小娘ではないか」
若い男の声が頭上で聞こえたかと思うと、奥から風がぶわりと舞い込む。部屋の四隅にあったらしい松明に火がついた。
藤色の狩衣が一番に目に入った。白い袴には結守神社の社紋である、二重丸に稲穂の文様が薄く描かれている。腰には三日月のように大きく反った長い刀が差してあり、その黒い鞘は松明の炎で妖艶に光っていた。
私の前で仁王立ちする涼し気な細い目をした端正な顔立ちのその男は、得意げに鼻を鳴らした。
「私の高貴な姿に腰を抜かしたか? 人の子よ」
あんぐりと口を開けて固まっていた私は、はっと我に返ると同時にその男から逃げるように後退りで距離を取った。
「お、おば、おばっ」
「なっ、貴様! 私を愚弄する気か? 私は“おばけ”ではないっ」
つかつかと目の前まで歩み寄ってきたその男は、眉間に皺をよせ私を見下ろす。
「ここの主に使える刀の付喪神、円禾丸だ。」
「刀の、付喪神……」
「ん? お前、どこかで見た顔だと思えば、麻ではないか」
円禾丸は顔を寄せるなり、目を見開いてそう言った。