「皆さん、あけましておめでとうございます。新たな年を健やかにお過ごしいただくために、心を清浄する祝詞を唱えました」


 わっと歓声が上がった。先ほどまで苛立った顔つきが、皆ほがらかになっている。


 「順番に授与させていただきます。もうしばらくお待ちください」


 そう言って頭を下げた篠がゆっくりと椅子に腰を下ろす。


 「ここはもういいです。私ひとりでも十分ですから」


 こちらを振り向くことなく淡々とそう言った篠。
 恥ずかしさと申し訳なさに目頭がカッと熱くなった。唇を噛み締めて紅白幕を潜る。雪駄に足を通すと、その場から逃げるように走り出した。


 本殿の裏にある小さな扉から中へ入った。中は真っ暗でその先に進む勇気がなかったので、扉に背を預けその場に座り込む。

 深い溜息を零すと同時に、いろんな思いがこみ上げてきた。

 頑張ろうって決めたばかりなのに早速迷惑をかけてしまった。