篠の柏手(かしわで)がふたつ響き、ざわめきが収まる。


 「天照皇太神(あまてらしますすめおおがみ)(のたま)はく 人は則ち天下(あまがした)神物(みたまもの)なり 須らく掌る静謐(しづまることをつかさどる)心は則神明の本主たり 心神(わがたましい)を傷ましむること莫れ 是の故に 目に(もろもろ)の不浄を見て 心に諸の不浄を見ず────……」

 目を瞑って祝詞を唱え始めた篠に、参拝者たちは有難そうに拝み始めた。

 三門さんの唱え方とは違っていて、淡々とした唱え方だ。なぜか胸に引っかかるような、妙な違和感を感じる。三門さんの時のような清らかで心地よい感覚はなかった。


 「────……皆花よりぞ木実(このみ)とは生る 我が身は則ち 六根清浄(ろっこんしょうじょう)なり 六根清浄なるが故に五臓(ごぞう)神君安寧(しんくんあんねい)なり 五臓の神君安寧なるが故に天地の神と同根なり 天地の神と同根なるが故に万物の霊と同体なり 万物の霊と同体なるが故に 為す所の願いとして成就せずといふことなし 無上霊宝(むじょうれいほう) 神道加持(しんどうかじ)


 深く息を吐きだすように最後の一文を唱えた篠は恭しく頭を下げてから参拝者たちに微笑みかけた。