本殿の中から聞こえる越天楽の音色が、今朝の澄んだ空気を一層清らかなものにしている。窓辺に立ち、心地よい朝日を浴びながらひとつうんと伸びをした。
枕元に畳んで置いていた緋袴に足を通し、へその上で蝶々結びをする。「よし」と頬を叩いて部屋を出た。
廊下を歩いていると居間からテレビの音が漏れているのに気が付いた。そっと顔を覗かせると、既にババがくつろいでいた。
「ババ、おはよう」
「麻。明けましておめでとう。今年もよろしくね」
「あっ、そっか。おめでとうございます」
はにかみながら少し丁寧に頭をさげて、ババの隣に腰を下ろす。
「おせちはないんだけれど、お雑煮があるよ。それを食べたらユマツヅミさまに新年の挨拶をしておいで。それから、“良かったら授与所の青女房を手伝ってやってくれ”って、三門からの伝言だよ」
「三門さん、もう出て行ったの……?」
「いや、昨日の晩から一度しか戻ってきていないよ。三箇日は忙しいからね」
少し心配そうに眉をひそめたババが立ち上がり、台所に消えていく。
それにしても、三門さんは大丈夫なんだろうか。返ってきてないということは、一睡もしていないということだ。
私にもできることを頑張って、三門さんを手伝おう。
そう心に決め、まずはババを手伝うべく台所へ向かった。