ばちを手にした三門さんが「そうだ」と何かを閃いた世に声をあげた。はい、と差し出されたばちを反射的に受け取ってしまい目を丸くする。


 「折角だし、麻ちゃんも太鼓叩きなよ」

 「え、でも、叩くって、どうやって」

 「普通にドーン、と」


 ひゃく、きゅうじゅうきゅ、きゅうじゅうはち────と誰かがカウントダウンを始めた。え、え、とおろおろしていると、三門さんが私の背中を押して太鼓の前に立たせる。


 「いいです、遠慮しますっ。ちゃんとしたやり方も分からないですし」

 「じゃあ僕も一緒に叩くから」


 私の手からするりと一本抜き取った三門さんが隣に立つ。


 「え、でも、あの……な、何回叩きますかっ」

 「慌てない慌てない。一回で十分だよ。どんなに辛くて悲しいことが起きても強い芯で立ち向かえるように、皆のお手本になるような強い音を響かせて」


 カウントが十を切った。三門さんが私の背をポンと押す。さん、に、いち────。

 胸に響く太い音が、夜の空高くに鳴り響いた。悲しみを打ち払い、皆を先導するような力強い音だった。