まだぼんやりしている頭が次第にはっきりしていく。弾けるように振り返って見上げた掛け時計は夜の十時を指していた。


 「ほら、ぼんやりしていないで」


 ババに促されて座布団に腰を下ろしたその時、


 「うう、寒い寒い」


 いつも通りの水色の袴姿になった三門さんが両腕を擦りながら入ってきた。「ただいま」と震える声で言いながらガスストーブの前に立つ。私と目が合うとにっこりと微笑んだ。


 「もう済んだのかい」

 「うん、これで本当に今年で最後の御祈祷。本殿の隙間風で、凍え死ぬかと思ったよ」


 苦笑いでそう言ってから、ちらりと年越しそばを一瞥した。


 「ババ、僕も食べたいな」

 「はいはい、温まって待ってな」


 よっこらしょ、と立ち上がったババの背中に感謝を述べた三門さんは、そのままガスストーブの前に腰を下ろした。