ふと目が覚めると、自分にあてがわれた部屋の天井が映った。
むくりと起き上がれば、リズムよくまな板に包丁が当たる音が台所から聞こえる。ふわりと出汁のいい匂いがして、何も考えずにつられるように部屋を出た。
廊下を歩いて、居間と台所を区切る暖簾を持ち上げると、割烹着を着た丸い背中があった。その人はお玉を持ったまま振り返る。
「ああ、起きたのかい。」
「ババ……? どうしてここにいるの」
「三箇日の間は社を手伝っているからさ。ほら、器を出しておくれ。年越しそば、麻も食べるだろう?」
訳が分からないまま器を取ってババに差し出す。勝手知ったる様子でてきぱきと動くババは、仕上げに海老のてんぷらを乗せてそれを今に運ぶ。慌ててその後ろを追いかけた。
「三門も、次の祈祷で今年の分は最後だって言っていたから、そろそろ戻ってくるだろうよ」
「今年で最後……?」