「僕は人も妖も、正しい道へ導かなければならない」


 三門さんは、真っ直ぐと前を見つめていた。


 「ごめんなさい、私」

 「麻ちゃんは何も悪くないよ。僕も麻ちゃんと同じくらいの年には、全く同じことを言っていたんだ。そして今の僕と同じようなことを、兄さんに言われた」


 懐かしそうに目を細めて空を仰ぎ、三門さんは小さく息を吐きだした。


 「お兄さんが、いたんですか?」

 「小さかったから覚えていないかな。麻ちゃんは兄さんとよく遊んでいたんだよ」


 思い出そうと記憶をたどれば、頭の奥に鈍い痛みが走る。


 やはり三門さんと同様、何も思い出すことができなかった。

 日常の些細な思い出ならともかく、三門さんやそのお兄さんのことまで忘れてしまうなんて、自分のことなのになんだかおかしい。