私たちは典子さんの家を後にした。
夕陽はすでに傾きかけて、強いオレンジ色の光を発している。地面に落ちて長く伸びた影がゆらゆらと揺れていた。
典子さんの家を出てから、沈黙が続いていた。川のせせらぎと虫の鳴き声だけが響いている。
「────ごめんね、麻ちゃん」
最初に口を開いたのは三門さんだった。突然の謝罪に顔をあげる。困ったように微笑む三門さんと目が合った。
少し考えれば分かることだった。
三門さんも私と同じ気持ちだったのだ。多聞が典子さんを、典子さんが多聞をどのように思っているかなんて、彼らを見ればすぐに分かることだった。
そして優しい三門さんが何も思わないはずなんてない。彼らの気持ちに気が付かないはずがないのに。