手を差し伸ばした典子さん。 狐はしばらくじっとその手を見つめると、くるりと背を向け走り去った。 寂しそうな声をあげた典子さんの肩に、三門さんがそっと手を乗せる。 「庭に油揚げを置いていたら、また来てくれるかしら」 「ええ、きっと。狐は油揚げが大好きですから」 そうね、と柔らかく微笑んだ典子さんのその微笑みが、夢の中の典子さんと重なる。 縁側で多聞と典子さんが寄り添って星空を眺めていた、あの時の表情と同じだった。